近視の抑制・治療

近視の進行抑制

現在近視の進行は世界的に問題となっており、世界各国で様々な治療法や抑制法が試みられています。非常にたくさんの治療やサプリなどが提唱されている反面、有効性・安全性として確立しているものは極めて少ないのが現状です。以下に有効性・安全性が確立している4つの治療について列挙します。

  • 低濃度アトロピン点眼による予防

    世界的にみて最も広く行われている治療です。アトロピン点眼は、毛様体筋の調節を麻痺させて、瞳を大きく広げる効果がある目薬で、小児の斜視や弱視の診断や治療に頻繁に使われているものです。アトロピン点眼には近視進行を抑制する強力な効果があることが判っています。しかし1%アトロピン点眼(通常の濃度)は、副作用として強い眩しさや近くを見たときぼやけて見えるため、長期に使用することは困難でした。

    シンガポールの研究で、濃度を希釈した0.01%アトロピン点眼を1日1回2年間使用したところ、近視進行が抑制され、その効果は点眼を行わない場合に比べて平均50%の抑制、さらに点眼を中止した後も効果が持続することが示されました。低濃度アトロピン点眼は副作用が少なく使いやすい目薬ですが、人によって効果が異なります。現在、日本でも研究が進められており、その効果や使用方法が明確になれば、一般の診療でも用いられる可能性があります。

    低濃度アトロピン点眼による予防
  • オルソケラトロジーによる予防

    近視は網膜の手前に焦点が合っている状態のため、カーブの弱いハードコンタクトレンズを睡眠時に装着して一時的に角膜の形状を平らにし、焦点を後方にずらすことで眼鏡やコンタクトなしで見えるようになります。レンズを外しても一定時間はその形状が続くので、睡眠時に装着し日中は裸眼で過ごすといったことが可能になります。

    オルソケラトロジーは、装用により眼軸の延長が抑制される(通常の眼鏡やコンタクトレンズ比で平均30~60%の抑制効果)ことが多くの研究により示され、比較的信頼性の高い治療法と言えます。手術を伴わないので心理的・身体的に負担が少なく、いつでも治療を中断することができます。

    欠点としては、自由診療のため、初期に費用がかさむこと、ハードコンタクトの装用に抵抗がある場合は、装用が困難なことがあげられます。適切な処方や管理を怠ると角膜感染症など失明につながる重篤な合併症を起こすこともあります。常に大人の管理の元で、ガイドラインを遵守して使用することとなっています。

    オルソケラトロジーによる予防
  • 多焦点ソフトコンタクトレンズによる予防

    多焦点ソフトコンタクトレンズによって周辺部網膜の焦点ボケを軽減することで、眼軸の延長を抑え、近視の進行が抑制されることが複数の報告で示されています。ただこの方法は、前述した低濃度アトロピン点眼やオルソケラトロジーと比較して未だ有効性を裏付ける十分な科学的証拠(エビデンス)は得られていません。

    眼に直接装着され視線移動にも追従するソフトコンタクトレンズは、視軸上から網膜周辺部に至る焦点制御において有利とされています。そのため近視進行抑制に最も効果的に発揮される手段になると考えられています。

    前述したオルソケラトロジーと比べて負担が少なく、刺激が少ないため装用しやすいこと。また、使い捨てコンタクトに代表されるように、衛生面での管理が比較的容易なことから、今後はソフトコンタクトレンズが小児の近視抑制において中心的な役割を果たしていく可能性があります。

    多焦点ソフトコンタクトレンズの概要 多焦点ソフトコンタクトレンズの概要
    多焦点ソフトコンタクトレンズ使用時の焦点 多焦点ソフトコンタクトレンズ使用時の焦点
  • 特殊な眼鏡による予防

    眼鏡を使った予防法として特殊な「非球面レンズ眼鏡」を使用し周辺部網膜の焦点ボケを軽減することで眼軸の延長を抑制する方法があります。「非球面レンズ眼鏡」については、わが国で多施設共同研究が行われましたが、効果を証明する結果は得られませんでした。また別の方法として「累進屈折力レンズ眼鏡」を使用し近くを見るときの調節を軽減させ、網膜の中心部における焦点ボケを防ぐことで眼軸の延長を抑制する方法があります。

    学童期において「累進屈折力レンズ眼鏡」は、通常の眼鏡やコンタクトレンズに比べて平均10~20%の近視の進行を抑制することが判りました。しかし、効果が小さいことや、眼鏡の位置調整などに常に注意が必要なため一般の眼科ではあまり推奨されていません。

    特殊な眼鏡による予防

さいごに
以上のように、いくつかの予防的治療法が検討されています。これ以外にもさまざまな試みや動物実験での仮説が提案されていますが、いずれも人間が使う上でのエビデンス(信頼性や安全性)は確かではありません。いずれの方法でも、その効果と安全性については、今後さらに長期的かつ大規模な臨床研究を行って確認する必要があります。